光の行方


遠い宇宙から飛んできた光の粒が大地に降りそそぎ、
長い時間をかけて、少しずつ世界を明るくしていきました。

ようやくわずかに物の輪郭が見えてきたころ、
動物や植物が生まれ、また長い時間をかけて
世界が明るくなるのに合わせて、だんだんと種類も増えて、繁栄していきました。


植物の中の一つに、ジカガリという花がありました。
ジカガリは、帽子をかけるみたいにして大きな筒花を垂れ下げ、
始めのうちはスズランなどと同じように
光をたくわえてぼんやりと光っていたのですが、
これに味をしめたのか、周りの光を片端から吸い込んで
まぶしいくらいに輝き始めました。

光を独り占めしたジカガリはどんどん数を増やして、
光を残らずかき集めました。
おかげで世界はまた暗くなり、やたらと明るいジカガリと
その周りだけが、ぽつぽつと光っていました。


世界が暗くなって、動物たちはさっさと眠りについてしまいましたが、
植物にとっては大変な問題でしたので、もう大騒ぎになりました。

目の利くねずみだけが起きていたので、植物は必死になってそれを探し、
岩かげにひそんでいるのを、ようやく見つけました。
そしてジカガリをどうにかしてほしいと頼み、
ねずみも快く、それに応えました。

ねずみたちが光の強い方へ走っていくと、すぐにジカガリが見つかりました。
ジカガリはため込んだ光を自分の葉にたっぷりと当てていて、
その姿がまるで、自分は関係ない、というふうに顔を覆っているように見えて、
腹を立てた一匹のねずみが、さっそくジカガリの茎にかじりつきました。

すると、ジカガリの花がぽんとはじけたかと思うと、
中につまっていた光が、いっせいに四方へと飛んでいきました。
あまりにまぶしかったので、茎をかじったねずみは気を失ってしまいました。

それを抱えて、ねずみたちは植物の所へ戻り、そのことを話しました。
「それは大変な災難でした。それでしたら、ツゲの葉をお使い下さい」
ツゲは丈夫に広げた枝の一つを、ねずみの方に差し出しました。
「これで目を覆っておけば、きっとまぶしくないはずです」

厚いツゲの葉で、ジカガリの出す光はだいぶやわらぎました。
それでしばらくの間、ジカガリを見つけてはかじっていましたが、
一向に世界は明るくならず、ジカガリの数も減る様子がありません。

ある日、植物がねずみたちに言いました。
「どうやらジカガリは、光といっしょに種もばら撒いているようです」
話しているすぐそばにも、ジカガリの細長い小さな種が落ちていました。
「種があちこちで芽を出して、また光をためこんでしまうので
 これではきりがありません」

植物もねずみも困っていると、
アカスズランが弱い光をゆらしながら言いました。
「それなら、光の方をぜんぶ集めてしまってはどうでしょう。
 私の花なら少しばかり光をためることができます」

皆それがいいと思いましたが、
スズランの花は小さく、あまりまぶしいのにも弱いので、
光をたくさん集めるのには向いていませんでした。

そこで、ホオノキに大きな葉をもらって、
スズランの花びらをたくさん貼り付けていきました。
そしてそれを何枚かつなぎ合わせて、一つの大きな袋ができました。
ねずみたちはそれを抱えて、またジカガリの所へ向かいました。

ねずみがジカガリの茎をかじるふりをすると、
花がはじけて光が飛び出し、ねずみたちはホオノキの袋で
それをぱっととらえました。

光が散ってしまわないうちにどうにかすべて取り終えると、
ホオノキの袋がぼんやりと光り、
ねずみたちは飛び跳ねて喜びました。

ねずみたちはその調子で次々とジカガリから光を取り返していきました。
ホオノキの袋はだんだん明るくなってきて、
そのうち、ジカガリの花よりもずっとまぶしくなりました。

袋がまぶしくなるたびに、ねずみたちは
一枚一枚とツゲの葉で目をおおっていったので、
ねずみの顔は葉っぱだらけになってしまいました。
袋の光以外に何も見えなくなったので、でこぼこやら小石やらに
つまずいたりしましたが、どうにか光集めが続きました。


ずいぶんとしてから、光のかたまりみたいになった袋を抱えて、
ねずみたちが植物の所へもどってきました。

久しぶりに光を浴びて、植物はうれしそうにはしゃぎましたが、
しばらくして言いました。
「しかしこれでは、ここ以外の場所はまっ暗です。
 あらゆる場所に、植物は生えています。
 だからといって袋を開けてしまっては、
 またジカガリが独り占めしてしまいますし、どうしたものでしょう」
「ではこれを誰も届かないような高いところへ
 飛ばしてしまうのはどうでしょう。
 そうすれば、皆、光を浴びることができます」

ねずみはホオノキの袋に、ホウセンカの実をたくさんくっつけました。
光に当たって乾いた実がぽんと一斉にはじけて、
袋は空高くに飛んでいきました。

こうして光のつまった袋は空の上をぐるぐると回りました。
世界には明るい時間と暗い時間が生まれましたが、
全ての動物や植物に、再び、等しく光が届くようになりました。
                                        (終)