無機質で殺風景な道が続き、並んだたいまつが二人の影を、幾重にも映し出した。
「遅いよ、シュウ! ほらっ早く!」
「はあっ、…待ってってば、ジュナ!もう歩き通しだよ」
「歩き通しって…さっき休憩したばっかりじゃない!
これはシュウが人間だからって問題じゃないわ。
とにかくシュウがだらしなさすぎるのよ」
「そんなぁ…」
ピンと立った耳、全身を覆う柔らかい毛並み、
そして歩調に合わせて揺れる尻尾。
地下に広がる広大なダンジョンで、
ひょんなことから俺はこの不思議な少女ジュナと出会い、
そして共に脱出を目指す事となった。
「もういいわ、次何か見つけたらそこで待ってるから、
後からゆっくり来れば… …危ない!シュウ!!」
ジュナに勢いよく突き飛ばされ尻もちをついた俺のすぐ近くを、
鋭い影がかすめていった。
次の瞬間、ジュナのかけ声と打撃音が響いて、
がしゃりと何かが地面にくずれ落ちた。
見るとそれは木彫りの人形のような物で、
手には錆びた短剣がくくり付けられていた。
壁には、その人形がすっぽりと収まる、人型のくぼみが空いていた。
「ふう、油断も隙もないわね。…大丈夫だった?」
「…うん、ありがとう」
「当然のことよ。シュウなんか、あたしがいなきゃ
命がいくらあっても足りないもの。
…だからもうあたしの近くを離れないことね。」
しなやかな手足と、敏捷な身のこなし。
反射神経に、とっさの判断力。
ジュナの戦闘能力は、俺のそれを遥かに上回っていた。
度重なる戦闘の中で主導権を握っていたのは、常にジュナの方だった。
これでは俺はジュナに頭が上がらないのだが…
代わりと言っては何だけど、このダンジョンには
「謎解き」というもう一つの困難が待ち受けていた。
扉を開けたり、必要なアイテムを手に入れたりするために、
思いもかけない方法で仕掛けを動かしたり
手持ちのアイテムを駆使しなければならない。
とにかく厄介で難しい謎解きだ。本当に難しい。本当に。
ジュナはこれがあまり得意ではないようで、
俺が仕掛けを前にあれこれ悩むのを、一歩後ろで眺めていることが多い。
そして散々悩み抜き、見事に謎を解き明かすと、
ジュナは、「ふーん、やるじゃない」と、
ありがたいねぎらいの言葉をかけてくれるのだ。
…まぁ、ジュナの戦いぶりを呆然と眺める俺の
情けない顔に比べれば大分ましだし、
一見そっけないその表情も、実はまんざらでもないように、
見えなくも、ない。
あと、ジュナの何気ない一言がヒントになって
謎が解けたりすることも少なくないのだが、それは内緒だ。
「ひゃっ!?」
突然、妙な声を上げてジュナが立ち止まり、
身をよじらせながら必死で背中を払い始めた。
ぽとりと音がして親指くらいの虫が地面に落ち、
ものすごい速さで壁の隙間に逃げていった。
叫んだ瞬間に目いっぱい逆立ったジュナの尻尾が
ゆっくりと地面の方に向き直るのを、俺は思わず見つめていた。
「何よ、そんなに珍しいわけ!?」
「うん、珍しいね」
「…?」
「ジュナがこんなに動揺するなんて」
「…っ、しょうがないでしょ!虫は苦手なのよ」
「へぇ、かわいい所もあるもんだなぁ」
「うっ、うるさい!!」
早足で歩き出すジュナに、俺は慌てて付いていく。
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